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夢日記 - 弟。

弟は、僕の一部だ。僕は、弟の一部だ。

今日から僕は田舎のグラウンドを使って子供達に野球を教える、
何泊かの合宿に来ている。

僕が泊まったのは大きな民家をそのまま宿にしたようなもので、12畳ほどの広間の間に戸で仕切りがしてある、玄関からすぐの部屋だった。
そこは湯治でも有名らしく、初老のおじさんと相部屋になった。
「こっちは風通しが良くないから、戸、開け放しててもいい?」
と、おじさん。気さくでいい感じの人だ。
「若い子は、元気で良いね。今夜も若いもんたちで祭に行くんだろ?」
「祭っていうか、まあ、集まって音楽かけてワイワイやるだけですけど」
僕はそう答えると、湯治へ向かうおじさんと別れて「祭」の会場に向かった。

もう夜も更けて、そのうえ田舎の山道なので相当暗い。
山道を登っていくと、明日から練習用に使うグラウンドが明るく照らされている。盛況なようだ。
そこではもうたくさんの、100人位はいるだろうか、同じ大学の学生がにぎやかに宴会をしている。
僕は友達を見つけると、人の輪から少し離れた所で酒を飲んだ。
そういえば、兄の大学では校内に合宿所があって、そこでこんな騒ぎをして近所の人に怒られてたらしいな…そんなことをふと、思った。
僕の大学はなぜか合宿所みたいなものは校内にはなく、なにかあるといつもこの山奥に来ている。今年で2回生、去年も同じように騒いでいたな…
正直、大勢で騒ぐのはあまり好きじゃない。あまり人付き合いは良くない方で、たいていの誘いは断ったりしている。面倒だし、大勢で騒ぐのにどうも覚めた目で見てしまう、ニヒルな面がある。だから、無理に誘われなければ来なかっただろう。嫌な気分だとすぐ顔に出るので嫌う人も多いが、それでもいい。僕にだって友達がいるから、彼らがいれば人生は楽しい。

僕の兄は似たような性分だが、年の功というか社会人になってからというか、そんな状況でもうまく溶け込むテクニックを覚えたようだ。それはそれで、ピエロ役になって周りを楽しませるのは楽しいよ、と言っている。案外、ピエロと言うのはフォローしてくれる人がいない。ストレスが溜まる。そんな時は好きなDVDやプラモ作りを黙々とやったり、介護の職場でお気に入りのお年寄りと延々話しているとそのうち気が晴れるらしい。
でも僕は、その兄がそれだけでストレス解消が出来きっていないことを知っている。本音を打ち明けられる人が少ないのだ。奥さんや恋人でもいれば捌け口になるのだろうが、兄は体躯と浮き沈みの激しい性格が災いして女性に縁がなく、婚期も大きく逃している。まあ、もう無理だろうな、でもお前は頑張れよ。兄にそう突っ込まれるのだが、兄が好きな僕は諦めているところが悲しく思う。

僕と話をするとき、兄はとても穏やかで安心している。兄にとって僕は唯一の癒しになっているようだ。僕も兄が好きで、色々なくだらない雑学を教えてくれるのが実家での二人の楽しみだった。

今、兄は家で一人だ。ストレス、溜め込んでるんじゃないかな、と心配してみたりしている。

祭も盛りを過ぎた頃。皆はしゃぎ疲れて静かになってきている。音響担当の学生も、スローなバラードみたいな曲を中心に流していた。
その時、耳に入ってきた曲に、僕は驚いた。
僕は下手の横好きで音楽をやっていたのだが、その時作った曲が流れてきたのだ。
思わず、音響の子に聴いてみる。
「この曲、どうしたの?」
「これ?シンセ買った時に付録に入ってた曲だよ。なんかイイからかけてんだ」
「これ、僕が作ったんだよ。なんでそんな付録に入ってるんだろ?」
「そうなの?なんか、いいよこの曲。コードはシンプルだから、耳に入りやすい」
「テクニックは全然なかったからね。メロディーでごまかした。大学の2回生の時に作って…」
そんな感じでひとしきりその子と話は盛り上がったのだが、なんだか違和感を感じた。
この曲を作ったのは大学2回生の頃だった。じゃあ、ちょうど今ということになる。

でも、何で懐かしく感じるんだろう…ずいぶん前に聴いたようだ…



夜も更けて、祭は終わった。結局2時間くらいだったのだろうか。あまり長くはなかった。
民宿までの帰り道でのこと。少し目つきの変な、若い男に付きまとわれた。一定の距離を置いて後からずっとついてくる。
気味が悪いので、振り返ると睨みを利かせてやった。野球をやってるので体力に自信はある。たぶん、負けないだろう。相手は明らかに痩せた、不健康そうな男だった。
案の定、男はひるんで立ち止まり、その後僕のあとをつけることはなかった。

ここで、不思議な幻覚に襲われる。映画のように、視点が僕ではなくその男からのものになった。
肩を怒らせて去っていく僕の後ろ姿を見ながら、男はつぶやいた。
「なんにもしてないのに。嫌なやつだ。殺してやる。ナイフがあるから、簡単だ。ヤツが部屋に戻って、安心しきったところを襲う。今、21:40だ。ナイフで胸を突き刺してやる。22時だ。それは22時に行う。ちょうどその頃、ヤツは部屋に戻り、戸を閉め、ほっと安心して油断する頃だ。ふざけやがって。待ってろよ」

男は着実に、僕の通ったとおりの道筋を通って、宿に向かっている。
21:50。宿の明かりが視界に入ってくる。
21:55。玄関は目の前、もう目の前だ。
21:59。幻覚は不意に終わり、僕の視点に戻っている。
だ が、僕は分かっている。彼の目、心を通して、今から僕が何をされるか理解しているのだ!

ヤツはもう、戸の向こうにいる。とっさに身構えるが、何も武器がない。拳だけで、ナイフを持った男に勝てるだろうか…?怖い。死ぬかもしれない。怖さでたまらない。
でも、やられる前にやらねば!

スパーン!
戸が大きく開け放たれた!

「うわああぁぁぁぁぁ!」
全身全霊の力を籠めて飛び掛る!
「お、おい、なんだよ!」
そこにいたのは、相部屋のおじさんだった。
「あ、おじさん…!どうして!?」
「どうしてじゃないよ。ここは私の部屋でもあるだろう。何だ、いきなり大声出して。脅かすつもりだったの?」
おじさんの笑顔を見るうち、緊張がほぐれて全身の力が抜けた。やはり、幻覚は幻覚。そういうことだったらしい。

「まあ、ビールでも飲もうよ。もう飲んでもイケるんだろ?」
おじさんと酒を飲みながら、気持ちを落ち着かせて色々な話をした。僕は昔からたまにこういう、幻覚を見る癖があるようだがいつもそれを忘れてしまっている。おじさんは気さくないい人で、僕の気持ちを汲んで色々な話をして和ませてくれる。
そのうち、明日から野球を教える近所の子と、そのお母さんが差し入れに煮魚を持ってきてくれた。明日から、よろしくお願いしますね、と丁寧に頭を下げてくれた。

そのつまみをおじさんと突っつきながら、僕は以前から不安に思っていたことをおじさんに聞いてみた。
「おじさん、おじさんは、自分の周りがおかしいと感じたことはありませんか?」
「と、いうと?」
「いえ、厳密に言うと、自分自身のことです。僕は、本当は僕じゃないような気がしてならない」
「じゃあ、なんなの、君は」
「僕には兄がいます。ずいぶん年上で、介護職の仕事しています。面白くて優しい兄です。最近は少し精神的にまいってるようですが、とにかく明るく乗り切るのが得意で、それが好きでもあるようです。
…時折思うのは、僕は、僕じゃなくてその『兄』なんじゃないか、ということなんです。なぜなら、僕自身より、兄に関してのことのほうが詳しく理解している時が多くあるからです」
「不思議な話だね。なぜそう思うの」
「今日もありました。自分の作った曲を聴いたんですけど、懐かしく感じました。でも、年齢的に言えばその曲はごく最近、作ったことになるんです。しかも、兄も今の僕と同じ頃作曲の真似事して何曲か創っていた」
「ふーん、しかしそれは、兄さんの曲を聴いて自分が作ったと勘違いしたのではないかな?」
「それはないでしょう。僕は兄の作った曲を知りません。そういうことをしてた、ということを聞かされただけですから。それにもうひとつ、不可解な点はさっきもいった幻覚です。日常の生活の中で、人の心と体が入れ替わる、そんなことがあり得るでしょうか?」
「まあ、ないだろうね。それで、君の考えた結論、というものはあるのかな?」
おじさんにそう聞かれた僕は、生まれてから今までそれとなく感じてきたある考えを聞いてもらうことにした。
それが真実であった場合の虚無感は、とても怖ろしくて言い出せずにいたのだが。このおじさんなら聞いてもらえるだろうと、思ったのだ。

「僕は、僕の生きてきた人生は、僕という存在は、全て兄の妄想、幻覚、いや、もっと端的に言うと『夢』の中の出来事だったのではないか、と思うんです。僕には両親がいて、姉も二人います。中学から野球をやっていて、大学では弱小だけど野球部に所属し、近所のリトルリーグでコーチのアルバイトもしています。恋人も、何度かデートして仲良くなった子もいます。その全てが、もし兄の頭の中だけの出来事だったとしたら…」
「全て、ゼロになる、と?」
…僕はおじさんの質問に答えられなかった。そのとおり、それが事実なら僕の世界は全て無に帰してしまう。人一人、ではない、僕のこの世界そのものがなくなってしまうことになる。
目の前のおじさんだって、差し入れをくれたおばさんも、僕になついてくれている子たちも、彼女も…
兄は、兄はどうだろう?もしこれが兄の夢なら、僕と言う存在は兄のストレスのはけ口としての存在でしかないのだろうか?僕は兄が人として好きだったのに、僕は兄の道具に過ぎなかったのか…

僕には答えられなかった。一人の人間の人生が、たった一夜の夢の中の出来事だったなんて。夢の中の人の気持ちは、生活はどうなるのだろう?その人の存在意義は?何のために人の夢の中で生かされているのか?

押し寄せる虚無感。圧倒的な虚無感。
空しさが残るだけだ。そして、夢の主はもう二度とこの僕の世界を夢見てくれることはないかもしれない。

ただ、沈黙が続いた。
ようやく口を開いたのは、おじさんの方だった。
「夢は、夢なんだよ。それが現実なら受け入れればいいじゃないか。これがお兄さんの夢なら、そしてそのお兄さんがもしその君の葛藤を汲み取ってくれるなら、何かを残してくれるはずだよ。方法は分からないけどね」
「おじさんはそれでいいんですか?消えてしまうんですよ」
「いいさ。そんな精神世界的なことはよくわからんよ。ただ、君が強く望めば、そのいわゆる現実世界にいるお兄さんは必ず君のために何かしてくれるよ。彼も人間だ。君と同じ苦悩を充分理解してくれているはずだし、なにより今のお兄さんは君を必要としている、だから夢を見てくれたんじゃないかな。」
「しかし、それは確証はない。兄が全てをクリアーすれば、なにもかもが消されてしまう…」
「そう。お兄さんも、実は思ってるんだよ。自分が本当に生きているのか。誰かの夢の中の一人に過ぎないのではないか、という恐怖、虚無感を。いつ、消されてしまうかもわからない実態のない恐怖感を」
「…」
「それをお兄さんがどうするつもりなのか?…答えは兄さんに託してみることだよ。そのためにまずやるべきことは…」

目覚めることだ。夢から目覚めることだ。

………



そして今、僕はこうして、僕の弟について夢日記を綴っている。
実際には、僕には弟はいない。
昔、グインサーガという小説で登場人物が同じようなことを言っている。国を治め、ひとりの女王となったこの瞬間に実はこれが誰かの夢で何もかも消えうせてしまうのではないか、と。細かい言い方は忘れたけど。僕の好きな映画「マトリックス」も似たような世界だ。何回読んでも意味の分からない小説「ドグラマグラ」も。

本当はこの話は夢日記に載せることにためらいがあった。夢の中で弟はそれこそ死にそうなくらい恐れていた。
結局、今の僕自身がそれと同じくらい精神的に悩んでいるのだ。夢の中で弟は、僕に似てるようで似てないようで、それでも、自分が消えてしまうかもしれない恐怖に立ち向かおうとした。
だから、僕はこの2、3日あり得ないくらいすっきりと目覚めることが出来た。
そのとき、弟の声が聞こえた気がする。
「僕は自分が消える覚悟をして兄さんに世界を託した。だから、クヨクヨ悩んでないで自分を取り戻し、今度は夢の中で僕を幸せにしてよ」、と。


消えてしまうことへの恐怖は、誰だってある。それは、死への恐怖だ。
それは、死んでみないと分からないけれども、そうなってしまっては誰にも伝えることは出来ないけど、この僕の『弟』に関しては、僕には出来ることがある。

ここにこうして、文章にして残してやることだ。
20歳になった、野球の好きな大学生。音楽を少しかじってたりもして、出来たばかりの恋人とこれから楽しい時間を過ごしていくであろう。人付き合いは悪いけどリトルリーグの少年からは好かれている、『兄』や家族を大事に思う、この『弟』のことを。


そういえば弟の名前を知らなかったな。でも、大丈夫。僕は、お前のことたまに思い出すよ。せっかく楽しい人生を謳歌しているんだもの。見る夢をコントロールはできないけど、きっとまた、見るよ。

それまでは、おやすみ…
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